希薄溶液の性質

【沸点上昇と凝固点降下】

沸点上昇

液体に不揮発性(蒸発しにくい)物質を溶かすと,その分の溶媒分子の割合が減り,蒸発する分子が減るため蒸気圧が低下する。この現象を〔 蒸気圧降下 〕という。溶液は蒸気圧降下により純溶媒よりも蒸気圧が低くなるため,沸騰させる(蒸気圧=大気圧にする)のに純溶媒よりも熱を加えなければならず,これを〔 沸点上昇 〕という。沸点上昇度は溶質粒子の種類に関係なく,濃度(質量モル濃度)に比例する

 

凝固点降下

溶媒に不揮発性の溶質を溶解すると,溶液の凝固点は溶媒よりも低くなる。これを〔 凝固点降下 〕といい,凝固点降下度は溶質粒子の種類に関係なく,濃度(質量モル濃度)に比例するまた,溶液の場合,溶媒が先に凝固するので,溶液の濃度はしだいに濃くなっていく。そのため,さらに凝固点降下が起こり,右下のグラフのdeは右下がりになる。また,液体を冷却していくと,右下のグラフのように凝固点以下になってもすぐには凝固しない。この現象を〔 過冷却 〕といい,凝固するとエネルギーの高い状態(液体)から低い状態(固体)へ変化するので熱(凝固熱)が発生して温度が上昇する。

 

質量モル濃度〔mol/kg

溶媒1kg当たりに溶けている溶質の物質量を質量モル濃度という。溶液の体積(温度によって変化する)を用いていないので,温度変化をともなう現象で用いられる。

(例) 尿素CO(NH2)2(分子量60.06.0gを水200gに溶かした溶液の質量モル濃度〔mol/kg

尿素のmol/水のkg = 6.060.0 × 10.200 = 0.50mol/kg

 

溶液の濃度と沸点上昇,凝固点降下の大きさ(沸点上昇度,凝固点降下度)

不揮発性の非電解質の1mol/kgの溶液の沸点が,純溶媒の沸点よりもどれだけ高いかを示す値をモル沸点上昇Kbという。同様に,不揮発性の非電解質の1mol/kgの溶液の凝固点降下の大きさをモル凝固点降下Kfという。これらの値は溶媒の種類に固有の値となる(沸点上昇,凝固点降下は溶質粒子の種類に関係なく,溶質の質量モル濃度mに比例するので)。質量モル濃度m mol/kg溶液の沸点上昇の大きさ(沸点上昇度)ΔTや凝固点降下の大きさ(凝固点降下度)ΔT’ は次のように表される。〔 ΔT = Kb × m 〕,〔 ΔT’ = Kf × m 

 

例題

 次の問いに答えよ。ただし,水のモル凝固点降下Kf1.85Kkg/mol,二硫化炭素のモル沸点上昇Kb2.3Kkg/molとする。

(1) エチレングリコールC2H6O2(分子量62)の水溶液は,不凍液の名前で用いられている。いま,水100gにエチレングリコールを40g溶かした不凍液は何℃で凝固するか。

(2) 硫黄の結晶0.32gを二硫化炭素の24.32gに溶かした溶液の沸点は,純粋な二硫化炭素よりも0.118℃高かった。硫黄の分子量はいくらか。

 

(1) ΔT’Kf×m,ΔT’1.85×(40/62)×(1/0.100)=11.912〔℃〕,水の凝固点は0℃なので,凝固点降下どは,−
 12
℃。

(2) 硫黄の分子量をxとし,ΔTKb×m より,0.1182.3×(0.32/x)×(1/0.02432)x2.56×1022.6×102

例題

 右の図はスクロースC12H22O11の希薄溶液を冷却していく場合の,冷却時間と温度の関係を示した冷却曲線である。次の各問いに答えよ。

(1) 凝固点は,図中のAFのどの点か。

(2) DEで急激に温度が上昇するのはなぜか。

(3) 図中のEFが右下がりになる理由を記せ。                

(4) 水200gにスクロースC12H22O11(分子量3424.00g を溶かした水溶液の凝固点は何℃か。ただし,水のモル凝固点降下Kf1.85Kkg/molとする。

 
 

(1) B  (2) 凝固熱が放出されるから  

(3) 溶媒が凝固すると,残った溶液の濃度が濃くなり,さらに凝固点降下が起こるから。  (4) −0.11

溶質が電解質(溶液中で電離する物質)の場合

 溶質が電解質の場合,沸点上昇度や凝固点降下度は,溶解後に存在するすべての溶質粒子(分子,イオン)の質量モル濃度に比例する。例えば,塩化ナトリウムNaClが完全に電離しているとすると,溶解後の溶液中にはNa+Cl-2種類の粒子が生じるので,沸点上昇度,凝固点降下度は同じ濃度の非電解質溶液の2倍になる。

 

例題

 右の図は純粋な水,1.0kgの水に18gのグルコースC6H12O6(分子量180)を溶かした溶液,1.0kgの水に4.75gの塩化マグネシウムMgCl2(式量95)を溶かした水溶液の蒸気圧曲線を示したものである。ただし,電解質は完全に電離するものとする。

(1) グルコース水溶液はACのどれか。                   

(2) 沸点t2100.052℃であるとき,t3は何℃か。

 

(1) B  (2) 100.078

 
 

【浸透圧】

デンプンの薄い水溶液と純粋な水をセロハンの膜で仕切って放置すると水分子は,デンプン水溶液の方へ入り込む。これはセロハンには非常に小さな穴(細孔)があり,分子の大きなデンプンはセロハンの膜を通過することができないためである。セロハンのように,溶媒分子は通すが,溶質分子は通さないような膜を半透膜といい,溶媒から溶液へ溶媒分子が入り込む現象を浸透という。

 
 
 

右の図のように,純溶媒と溶液を接触させると,溶媒が溶液の方へ浸透し,溶液側の液面が上がる(a)。左右の液面の高さを等しくさせるには,溶液側に一定の圧力を加える必要がある(b)。この圧力を溶液の浸透圧という。

溶液の浸透圧は溶質の種類に関係なく,溶けている溶質粒子(分子,イオンなど)のモル濃度(質量モル濃度ではない)に比例し,絶対温度に比例する。この関係は,気体の状態方程式(pV=nRT)と同じ式で表すことができ,浸透圧をΠとして,ΠV=nRTと表す

 

例題 0.10mol/Lのブドウ糖C6H12O6(分子量180)水溶液と同じ浸透圧示す塩化カルシウムCaCl2(式量111)水溶液を100mLつくるには塩化カルシウムを何g水に溶かせばよいか。塩化カルシウムは完全に電離するものとする。

 

塩化カルシウム水溶液は,電離した後のモル濃度を考える。必要なCaCl2xgとすると,モル濃度はx/111×(1/0.100)mol/L〕。この値は電離する前のモル濃度なので,電離後のモル濃度を考える。CaCl2の電離は,CaCl2Ca22Clなので,Ca2Clの合計はCaCl23molになる。CaCl2 xgでは,モル濃度はx/111×(1/0.100)×3mol/L〕となる。また,溶質の種類に関係なく浸透圧は溶質のモル濃度に比例するので,この溶液のモル濃度は,0.10mol/Lとなるので,0.10x/111×(1/0.100)×3が成り立つ。x0.37g

 

例題 硫酸銅(U)無水塩CuSO4(式量160)の8.6gを溶かして500mLとした水溶液の20℃における浸透圧を測定したところ,3.37×105Paであった。硫酸銅(U)の電離度を求めよ。気体定数R=8.3×103PaL/(Kmol)

 

CuSO4 8.6gの電離前の物質量は,8.6/1600.05375mol/L〕。CuSO4の電離度をαとすると,0.05375αだけが電離するので電離後を考えると次のようになり,電離後は0.05375(1+α)mol/Lとなる。

 
 

これを,ΠV=nRTに代入してαを求めると,3.37×105×0.5000.05375(1+α)×8.3×103×293,α=0.2890.29

 

例題 図のように,U字管の中央を半透膜で仕切り,(a)には純粋な水を,(b)にはグルコース溶液を,同時に両方の液面が同じ高さになるように入れ,27℃になるように保って放置した。

 

(1) (a)(b)いずれの液面が上昇するか。                 

(2) このグルコース溶液は,1.2gのグルコースC6H12O6(分子量180)を水に溶かして200mLにしたものである。この水溶液の液面を上昇させないために加える圧力(浸透圧)は何Paか。気体定数R=8.3×103PaL/(Kmol)

 
 
 

(1) (b)  (2)  ΠV=nRTより,Π×0.200(1.2/180)×8.3×103×3008.3×104Pa

 

例題 あるタンパク質0.059gを溶かした水溶液10mLがある。この水溶液の浸透圧は27℃で2.1×102Paであった。このタンパク質の分子量はいくらか。気体定数R=8.3×103PaL/(Kmol)

 

分子量をMとすると,ΠV=nRTより,2.1×102×0.010(0.059/M)×8.3×103×3006.99×1047.0×104