3 希薄溶液の性質h 【沸点上昇と凝固点降下】 沸点上昇 液体に不揮発性(蒸発しにくい)物質を溶かすと,その分の溶媒分子の割合が減り,蒸発する分子が減るため蒸気圧が低下する。この現象を〔 蒸気圧降下 〕という。溶液は蒸気圧降下により純溶媒よりも蒸気圧が低くなるため,沸騰させる(蒸気圧=大気圧にする)のに純溶媒よりも熱を加えなければならず,これを〔 沸点上昇 〕という。沸点上昇度は溶質粒子の種類に関係なく,濃度(質量モル濃度)に比例する。 |
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凝固点降下 溶媒に不揮発性の溶質を溶解すると,溶液の凝固点は溶媒よりも低くなる。これを〔 凝固点降下 〕といい,凝固点降下度は溶質粒子の種類に関係なく,濃度(質量モル濃度)に比例する。また,溶液の場合,溶媒が先に凝固するので,溶液の濃度はしだいに濃くなっていく。そのため,さらに凝固点降下が起こり,右下のグラフのd〜eは右下がりになる。また,液体を冷却していくと,右下のグラフのように凝固点以下になってもすぐには凝固しない。この現象を〔 過冷却 〕といい,凝固するとエネルギーの高い状態(液体)から低い状態(固体)へ変化するので熱(凝固熱)が発生して温度が上昇する。 |
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質量モル濃度〔mol/kg〕 溶媒1kg当たりに溶けている溶質の物質量を質量モル濃度という。溶液の体積(温度によって変化する)を用いていないので,温度変化をともなう現象で用いられる。 (例) 尿素CO(NH2)2(分子量60.0)6.0gを水200gに溶かした溶液の質量モル濃度〔mol/kg〕 尿素のmol/水のkg = 6.0/60.0 × 1/0.200 = 0.50〔mol/kg〕 溶液の濃度と沸点上昇,凝固点降下の大きさ(沸点上昇度,凝固点降下度) 不揮発性の非電解質の1mol/kgの溶液の沸点が,純溶媒の沸点よりもどれだけ高いかを示す値をモル沸点上昇Kbという。同様に,不揮発性の非電解質の1mol/kgの溶液の凝固点降下の大きさをモル凝固点降下Kfという。これらの値は溶媒の種類に固有の値となる(沸点上昇,凝固点降下は溶質粒子の種類に関係なく,溶質の質量モル濃度mに比例するので)。質量モル濃度m mol/kg溶液の沸点上昇の大きさ(沸点上昇度)ΔTや凝固点降下の大きさ(凝固点降下度)ΔT’ は次のように表される。〔 ΔT = Kb × m 〕,〔 ΔT’ = Kf × m 〕 例題 次の問いに答えよ。ただし,水のモル凝固点降下Kfを1.85K・kg/mol,二硫化炭素のモル沸点上昇Kbを2.3K・kg/molとする。 (1) エチレングリコールC2H6O2(分子量62)の水溶液は,不凍液の名前で用いられている。いま,水100gにエチレングリコールを40g溶かした不凍液は何℃で凝固するか。 (2) 硫黄の結晶0.32gを二硫化炭素の24.32gに溶かした溶液の沸点は,純粋な二硫化炭素よりも0.118℃高かった。硫黄の分子量はいくらか。 (1) ΔT’=Kf×m,ΔT’=1.85×(40/62)×(1/0.100)=11.9≒12〔℃〕,水の凝固点は0℃なので,凝固点降下どは,− (2) 硫黄の分子量をxとし,ΔT=Kb×m より,0.118=2.3×(0.32/x)×(1/0.02432),x=2.56×102≒2.6×102 |
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例題 右の図はスクロースC12H22O11の希薄溶液を冷却していく場合の,冷却時間と温度の関係を示した冷却曲線である。次の各問いに答えよ。 |
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(1) B (2) 凝固熱が放出されるから (3) 溶媒が凝固すると,残った溶液の濃度が濃くなり,さらに凝固点降下が起こるから。 (4) −0.11℃ |
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溶質が電解質(溶液中で電離する物質)の場合 |
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右の図のように,純溶媒と溶液を接触させると,溶媒が溶液の方へ浸透し,溶液側の液面が上がる(a)。左右の液面の高さを等しくさせるには,溶液側に一定の圧力を加える必要がある(b)。この圧力を溶液の浸透圧という。 溶液の浸透圧は溶質の種類に関係なく,溶けている溶質粒子(分子,イオンなど)のモル濃度(質量モル濃度ではない)に比例し,絶対温度に比例する。この関係は,気体の状態方程式(pV=nRT)と同じ式で表すことができ,浸透圧をΠとして,ΠV=nRTと表す。 例題 0.10mol/Lのブドウ糖C6H12O6(分子量180)水溶液と同じ浸透圧示す塩化カルシウムCaCl2(式量111)水溶液を100mLつくるには塩化カルシウムを何g水に溶かせばよいか。塩化カルシウムは完全に電離するものとする。 塩化カルシウム水溶液は,電離した後のモル濃度を考える。必要なCaCl2をxgとすると,モル濃度はx/111×(1/0.100)〔mol/L〕。この値は電離する前のモル濃度なので,電離後のモル濃度を考える。CaCl2の電離は,CaCl2→Ca2++2Cl−なので,Ca2+とCl−の合計はCaCl2の3倍molになる。CaCl2 xgでは,モル濃度はx/111×(1/0.100)×3〔mol/L〕となる。また,溶質の種類に関係なく浸透圧は溶質のモル濃度に比例するので,この溶液のモル濃度は,0.10mol/Lとなるので,0.10=x/111×(1/0.100)×3が成り立つ。x=0.37〔g〕 例題 硫酸銅(U)無水塩CuSO4(式量160)の8.6gを溶かして500mLとした水溶液の20℃における浸透圧を測定したところ,3.37×105Paであった。硫酸銅(U)の電離度を求めよ。気体定数R=8.3×103Pa・L/(K・mol) CuSO4 8.6gの電離前の物質量は,8.6/160=0.05375〔mol/L〕。CuSO4の電離度をαとすると,0.05375αだけが電離するので電離後を考えると次のようになり,電離後は0.05375(1+α)mol/Lとなる。 |
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これを,ΠV=nRTに代入してαを求めると,3.37×105×0.500=0.05375(1+α)×8.3×103×293,α=0.289≒0.29 例題 図のように,U字管の中央を半透膜で仕切り,(a)には純粋な水を,(b)にはグルコース溶液を,同時に両方の液面が同じ高さになるように入れ,27℃になるように保って放置した。 |
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(1) (b) (2) ΠV=nRTより,Π×0.200=(1.2/180)×8.3×103×300=8.3×104〔Pa〕 例題 あるタンパク質0.059gを溶かした水溶液10mLがある。この水溶液の浸透圧は27℃で2.1×102Paであった。このタンパク質の分子量はいくらか。気体定数R=8.3×103Pa・L/(K・mol) 分子量をMとすると,ΠV=nRTより,2.1×102×0.010=(0.059/M)×8.3×103×300=6.99×104=7.0×104 |
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